by Suikyo < suikyo at yk.rim.or.jp >
This piece is based on the Windows(R) game 'Kanon', which is created by Key and produced by Visualart's. LATEST VERSION may be found: http://www.yk.rim.or.jp/~suikyo/kanon/ この作品は Visualart's および Key によるゲーム 'Kanon' における、あゆを中心 としたシナリオを元にしています。作品のオリジナリティは全て 'Kanon' に帰します。 楽しんでいただければ幸いです。 |
雪が止んで雲が去り、綺麗な夕焼けが空一面に広がる中、花壇に寄りかかって祐一君を待っている。
先月、大学の近くに新しい喫茶店が出来て、道に綺麗な花壇を作った。たちまち、そこはボクのお気に入りの待ち合わせ場所になった。花壇の8割ぐらいは名前も知らない観葉植物。所々には、こんな寒い季節なのに、親指サイズの可愛くて赤い花が咲いている。
花壇には小さな黒板があって、その日のメッセージが書かれている。今日のメッセージはお昼に書きかえられた――『☆初雪です☆』
ボクがガラス張りのお店の中に目を向けると、レジのお姉さんがにっこり笑ってくれることもある。うーん、あの目は多分、ボクのことを中学生だと思ってるかな。お姉さん、人は見かけに寄らないんだよ。こう見えても、当年とって24歳だもん。頭の中は17歳だけど。
ボクの前を会社帰りの人や、大学生達が、楽しそうに、あるいは疲れたように行き交う。
時々、ボクや花壇に目を向ける人がいて、ちょっと嬉しい。忘れられてるわけじゃないんだね。
…そんなことが嬉しいのは、ボクだけかもしれない。
でもボクは、それでいいや、って思う。
そういう「ボクだけのこと」の一つ々々が、「ボク」になっていくんじゃないかと思う。
ふと思い出して、ボクは、もう少し黒ければただの炭に見えそうなほど焦げてしまったたい焼きを袋から取り出し、少しずつかじる。
既に思い知っている事実は全く変化が無くて、やっぱり、あんまり美味しくない。
でも、自業自得だから。
ボクはこの罰を甘んじて受けよう。…なんてね。
やっと駅の方から私服姿に着替えた祐一君が、赤い太陽を浴びながらやってきた。祐一君が手を挙げたので、ボクも手を挙げて応えた。
祐一君の顔を見ると、安心する。安心するってことで、やっぱり今までちょっと気を張ってたのかな、って初めて気付く。
声が届くところまで来た。
「よう、相変わらず元気に食い逃げしてるか?」
「食い逃げなんて、し・て・な・い・よっ! 道行く人に誤解されるようなこと言わないでっ!」
出会い頭に何て事を言うんだよ、もう…。
「悪い悪い、冗談だ。今日はどうだったよ」
「どうだったと思う?」
祐一君は一歩下がって、ボクの姿を上から下までジロジロと眺め回した。
「スラックスの膝に汚れがついてる」
「う」
「でも肘にはついてない。従って、初雪にもかかわらず全身ダイブは避けられたわけだ。特訓の成果だな」
「…うぐぅ」
図星。読まれまくり。
ボクは慌てて話題を変えた。
「そ、そんなことより、ちょっと面白い話があるんだよっ」
「これからも特訓は止めないからな」
「うぐぅ、素直に話題転換について来てよ…」
「面白い話、か?」
「そうなんだよ」 ボクは頷いた。「ボクが祐一君を好きになったわけが、やっと分かった気がするんだよ」
祐一君は口をあんぐり開けた。
「あんだって?」
「だから、祐一君を好きな理由が――」
「ああ、今日も、いい天気だなぁ」
「うぐぅ、現実逃避しないで…」
「あのなぁ」 祐一君は向き直った。「今まで、そうゆうこと分かんないで、俺と付き合ってたのか?」
「あ、えっと、ごめんなさい、そういう意味じゃなくて…」
「じゃなくて?」 ちょっと怒った声。うわぁ、言い方間違えちゃったよ。
「うぐぅ…そのぅ…」
< ... To be continued to Epilogue >