雰囲気を楽しんでもらえれば嬉しいのですが。 出来たら、もっと色々と想像してみて下さい。
可愛い猫をそこかしこにあしらった水色の便箋が、開封された茶封筒に眠っている。 差出人の住所は日本でも有数の雪国のもので、投函した時に雪をかぶったのか、 封筒を通して便箋まで、ところどころが濡れて滲んでいる。 手紙は一度は読まれたけれど、幼い読み手は自分のことで手一杯。 ついに幼い書き手の心を知る事は無かった。 そこには丁寧な字で、こんなことが書いてある。 ---------------------------------------------------------------- 相沢 祐一 様へ 今年もまた雪の降る季節になりました。 いかがお過ごしですか? テレビでは、そちらはいつもよりもあたたかい冬だということですが、 こちらではいつも通りに沢山の雪が降っていて、一杯雪だるまが作れそうです。 (中学生にもなって雪だるまなんて作るな、って言われそうです。) そう、私達、もう中学生になりましたね。 祐一君は、新しい学校には慣れましたか? 「担任の先生」がいないなんて、何だかさびしい感じがします。 変ですか? クラスメイト(特に男の子)はみんな、その方が自由でいいって言います。 多分、そういうものなんですね。 定期試験はどうでしたか? 私は一学期、大ポカをやりました。 誰かに聞けば良かったのに。 試験なんて、小学校の頃のと変わらないつもりで受けたら、とてもひどい成績に…。 お母さんは通知表を見て(取り上げられました)、絶句してました。 もちろん、今ではそんなことはありません。 新しい友達が出来ました。 とっても面白い女の子で、いつも半テンポ遅れてしまう私をしょっちゅう からかっています。 何だか祐一君と似ています。 その子が、「名雪は足が速い」と言って、陸上部に誘ってくれました。 (私は今、陸上部の部員なんですよ! おどろきましたか?) 部活動はとても楽しいです。 お母さんは「朝起きるのが遅れてもいいように、一杯練習しなさい」なんて ひどいことを言います。 自分が走ることが好きだったなんて、私はちっとも知りませんでした。 しかも私、三年生にはかないませんが、一・二年の中では結構速い方なんですよ。 でも、相変わらず反応が鈍いので、やっぱりスタートが課題だったりします。 誘ってくれた友達も、「やっぱりそれなのね」とあきれています。 ふぁいと、です。 家の中は相変わらずです。 お母さんと二人で仲良く暮らしています。 お母さんはスキを見ては例のジャムを取り出してくるので、あまり油断できません。 まったく、いやんなっちゃう! もちろん、お母さんは大好きですけど。 さて、そろそろびんせんがおしまいです。 (これ、かわいいでしょう。猫さんのびんせんです。) 私は楽しく暮らしています。 祐一君も楽しいといいです。 それでは。 水瀬 名雪 P.S: そろそろ祐一君の嫌いな寒い季節ですが、風邪を引かないように気をつけて下さいね。 こちらも、(今日はたまたま晴れていますが)雪の日が多くなってきたので、 お母さんが色々道具を出したり、一番厚い服を出したりしています。 P.P.S: けんかとか、しちゃダメだよ。 祐一君、絶対知らない内に誰かにけんか売ってそうだもん。 仲良しが一番! P.S3: ---------------------------------------------------------------- 手紙はそこで終わっている。